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奇才の字幕屋・太田直子の魅力を生涯作品からひもとく②

2019年8月6日

こんにちは!トリ女のマミです。

 

今回は「奇才の字幕屋・太田直子の魅力を生涯作品からひもとく②」と題し、奇才の字幕屋・太田直子氏が遺した生涯6作品のうち、字幕翻訳メインの書籍3冊をさらにくわしくご紹介します。

 

前回記事はこちら。

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はじめに

本記事では、奇才の字幕屋・太田直子氏の下記3作品をよりくわしくご紹介します。

 

  • 『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』(岩波書店、2013年4月)
  • 『字幕屋に「、」はない』(イカロス出版、2013年9月)
  • 『字幕屋の気になる日本語』(新日本出版社、2016年7月6日)

 

字幕翻訳や映画、英語に興味ある方などに有益な情報になれれば幸いです。

 

『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』(岩波書店、2013年4月)

字幕翻訳家を目指す方が知りたいであろう下記3点を網羅している書籍のため、字幕屋志望の方に一番おススメしたい書籍

 

  1. 映画字幕のつくり方(受注から字幕原稿作成~担当者との協議~初号試写まで)
  2. 字幕翻訳家の多くが通る字幕屋前キャリア+字幕屋・太田氏が誕生するまで
  3. 太田氏の字幕屋日常

 

上記内容は書籍入手してからじっくり堪能いただくとして、下記に、トリ女が皆さまと共有したい内容をご紹介。

 

  • 字幕+句読点=内容がより分かりやすい

「妄想字幕バー」という章で、現在の字幕業界の常識(ルール)から逸脱するが、字幕屋・太田氏としてチャレンジしてみたい字幕技法がいくつか提案されている。

 

そのうちの1つが、句読点の導入

 

あまり意識されない映画鑑賞者も多いと思うが、字幕にはもともと句読点がなつかない。

 

 映画の字幕には句読点がない。日本語字幕が誕生した八十年前からずっとそうで、字幕屋は皆それを基本ルールとしてなんとなく守ってきた。しかし実は、これにはあまり論理的な根拠がない。(途中略)

 従来、字幕では「。」に当たる部分を全角(1字分)あけ、「、」に当たる部分を半角(半字分)あけている。しかし、あけられたスペースが全角分なのか半角分なのか、ぱっと見にははっきりしない。たとえば、

 

愛してる あの人は?

愛してる あの人は?

 

 どう違うのかわかりづらい、このふたつの字幕。違いは、文中スペースが全角アキ(。)か半角アキ(、)かである。最初の文を丁寧に直訳すれば「僕は君を愛してるよ。ところであの人は今どうしてる」、ふたつめの文んは「君が愛しているという、あの人はどうしてる」なのだが、字幕は字数制限があるので表現足らずになりやすい。舌足らずなうえに紛らわしい全角アキと半角アキ。スクリーン上にマス目が浮かぶわけでなし、これは誤読を助長するだけだ。しかし、ここに句読点を補えばましになる。「愛してる。あの人は?」「愛してる、あの人は?」

(『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』p121-122)

 

  • 夢破れてもなんかあり

実は太田氏、中学時代から大学院中退するまで卓球ロシア文学に夢中で、映画ファンでも、英語好きでもなかったのである。

 

そんな氏が、数奇な出会いにより字幕屋になった人生を振り返り、本書籍のエピローグで下記独自の人生論を語っている。

 

 要は、あきらめ方の問題だと思う。夢がかなわないことの絶望とどう付き合っていくか。その対処の仕方に人間の器が表れる。人の意見を参考にするのはいいが、最後は自分で決めるべきなのだ。(途中略)

 こんなことを書いていると、どこからともなく別の声が聞こえてくる。

「あんたは一応まがりなりにも字幕屋になって夢をかなえてるから、そうやって偉そうに説教たれてるんだろう」

 はい、ごもっとも。しかし恐れながら、閣下、わたくしの夢は字幕屋ではなかったのでございます

 

[トリ女注:ここで、己の人生との猛格闘の末に字幕屋・太田氏が誕生した秘話が語られる)]

 

 実を言うと、参考にしてもらいたかったのは、この無計画さだ。長期の人生設計などたいていは屁のツッパリにもならないのでほどほどにしておくべきである。自分がイメージしていた「未来」と現実が違うからといって、いちいちめげていたら人生いくつあっても足りない。(途中略)

 自分の道のモデルはどこにもいない。己の足で地を踏みしめて道をつけてゆくのみ。映画や小説とちがって、人生に「わかりやすい物語」はないのだから。

(『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』p148-161)

 

『字幕屋に「、」はない』(イカロス出版、2013年9月)

 

本書は『通訳・翻訳ジャーナル』に連載したエッセイ(2004年~)に、加筆・修正加えて再編集した作品。

 

字幕界のあれこれを字幕屋・太田氏が毒舌&ユーモアに語っており、デビュー作『字幕屋は銀幕の片隅で日本語が変だと叫ぶ』の続編に近いのがこの作品。

 

作品中に紹介される数々の映画字幕の裏側のなかで、トリ女が特に読者の皆さまと共有したい3か所を下記に抜粋した。

 

  • ネイティブも映画の英語が聞き取れない!?

ネイティブが映画のセリフを聞き取れないなら、駆け出し通訳者トリ女が、今でも映画のヒアリングに苦戦してるのも妙に納得。

 

 映画を輸入すると、ほぼもれなく原語台本がついてきます。この場合の「台本」とは、撮影前に俳優が受け取る脚本ではなく、完成した映画のセリフを一言一句正確に書き取ったものです。字幕屋はそれをもとに翻訳するのですが、たまに手に入らないこともあります。(途中略)そんなときは日本在住の外国人にヒアリング(セリフの書き起こし)をお願いするのですが、これがボヤキ節の始まり。

 その言語を母国語とする人なら誰でもそんなこと楽勝でやれるはず、と思うでしょう。とーーーんでもない!(途中略)なぜならそれは十中八九、ヒヤリングミスやスペリングミスてんこ盛りのボロクソ台本になるからです。

 つまりヒアリングには高度な知識と教養と責任感が不可欠であり、その言語を日常的にしゃべって暮らしているというだけでは不十分なのです。(途中略)

 確かに小声だったり早口だったり、聞き取りにくいところはたくさんあります。クリアに聞こえるナレーション部分などは完璧でした。でも、one→arm、eye→thigh、strength→string、lawyer→water、put→hope、chapel→templeなどなど、いったいどうしてこんな間違いが!?その単語では文章として意味不明になることくらい容易に気づきそうなものなのですが……。

(『字幕屋に「、」はない』p29-31)

 

  • 英語より大事な日本語

駆け出し通訳者トリ女は、英語も日本語、そして中国語も苦戦中。。。

 

少し前の話になりますが、2009年の冬、新聞に掲載されたセンター試験の英語筆記問題に挑戦してみました。

 ああ、やっぱりテストは嫌いだ、英文を読んでもちっともおもしろくないから次第に眠くなるし、肩は凝るし……とボヤきつつ、なんとかやり終えて採点したら、200点満点の170点。翻訳者としては恥ずかしい得点でしょうね。でもいいのです。実際の仕事では、わからない単語や言い回しが出てきたら、あらゆる手段を使って調べればいいだけですから。(途中略)

いま現在、英語が世界共通語に近い地位を占めている以上、コミュニケーションツールとして英語力を高めるのはいいことだと思います。私も、もうちょっとまともに英会話ができるようになりたい!というのが本音です(だったら少しは努力しろ)。けれどその一方で、日本語の繊細な表現力を失ってほしくない、とも思います

(『字幕屋に「、」はない』p164-166)

 

  • 大事な日本語の過剰な規制

社内通訳者のトリ女には経験ないが、放送通訳者もこんな苦労を抱えているのだろう・・・。

 

 過剰な規制も気になります。これは有名な話ですが、あるテレビドラマのセリフで「片手落ち」という言葉が出てきたとき、視聴者から「それは片手を失った人が傷つくではないか、けしからん!」というクレームが来たそうです。きっとこの人のお宅には片手鍋などないんでしょうね。フライパンも厳禁で、炒め物はすべて中華鍋で、とか。

私も、原稿に「手が足りない」と書いたら、「クレームが来そうなので、『人手が足りない』にしてください」と懇願されたことがあります。この微妙な「危険回避」の意味が理解できず悩みました。

(『字幕屋に「、」はない』p62-63)

 

『字幕屋の気になる日本語』(新日本出版社、2016年7月6日)

 

本書籍は、太田直子が亡くなった後に出版された作品である。

 

 

氏の急なご逝去もあってか、異なる出版社3社で掲載されたエッセイを1冊にまとめた書籍のため、内容にやや統一感欠けるのが玉にキズ。

 

とは言うものの、氏の字幕屋談話が読めるのはこれで本当に最後。

 

ということで、字幕屋・太田氏がどの作品でも主張していた若手を育てる重要性と氏の仕事観を本書籍から抜粋して、太田氏の字幕屋ワールド紹介をおしまいにしたいと思います。

  • 便乗するならカネ送れ

字幕界の厳しいお財布事情と労働条件により、若手が育ちにくい環境を嘆く太田氏。

 まず、字幕の翻訳料は映画の長さで決まります。一分か十分単位で単価を設定し、たいてい十分=二万円~三万が相場です。登場人物がめちゃくちゃしゃべっていても、全然しゃべっていなくても料金は同じ。ゆえに寡黙な映画ほど「おいしい仕事」になります。標準的な映画の長さは百分くらいなので、一作品を翻訳すれば二十万~三十万もらえる計算ですね。

 しかし、字幕世界でも価格破壊が進んでいて、十分=数千円なんてこともあるそうです。「労働時間十分」じゃありませんよ、「映像十分」。これはほぼ一日分の労働です。締め切りに追われ、私生活をなげうって一日十時間以上デスクに張り付き、知力体力の限りを尽くした揚げ句が一日数千円では、かなりキツイはず

 しかも、優秀で性格の良い若手ほどそういう仕事が集中し、便利に使われて身も心もボロボロにされ、「もうこんな働き方、わたしには無理です」と去っていくこともしばしば。これは字幕界の大いなる損失です。

(『字幕屋の気になる日本語』p206-207)

 

  • 映画字幕よ 永遠なれ

心の赴くままに字幕屋に行きついた太田直子氏の仕事観、味わってみてください。

夢は無限に広がりますが、いずれにしても仕事には愛と誇りが必要です。それをなくしたら、ただの稼業。経済効率一辺倒に負けず奮闘してください。支えとなるのは、日々の小さな手ごたえや喜びです。

(『字幕屋の気になる日本語』p211)

おわりに

皆さま、いかがでしたでしょうか。

 

本記事で書ききれなかった面白&心を打つエピソードは他にもたくさんあります。

 

字幕屋人生30年駆け抜けた、奇才の字幕屋・太田直子氏の声を、書籍から是非直接聞いてみてください。

 

本ブログの最後に、今回登場した書籍を再度ご紹介します。

 

 『字幕屋のニホンゴ渡世奮闘記』(岩波書店、2013年4月)

 

『字幕屋に「、」はない』(イカロス出版、2013年9月)

 

『字幕屋の気になる日本語』(新日本出版社、2016年7月6日)

 

記事更新のはげみになりますので、

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  • この記事を書いた人

マミ@日英中トリリンガル

中国語キャリア模索中のアラサー駆け出し日英通訳者。超論理思考の夫に日々脳トレしてもらう、非キラキラ系コンサル妻。2020年1月現在妊娠中&同年春に第1子出産予定。

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