トリ女道~トリリンガル女子のキャリアブログ~

日英通訳の私が+αで中国語のキャリアを模索します

通訳関連本紹介③:西山千氏著『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』(1988年)

こんにちは!トリ女のマミです。

今回は通訳者西山千氏の本『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』(1988年)をご紹介します。

 

 

はじめに(西山千氏紹介)

“One small step for a man, one giant leap for mankind”


これは一人の人間にとっては小さな一歩だが、人類にとっては偉大な飛躍である

 

ご存知の通り、上記は1969年アポロ11号が月面着陸に成功した時のアームストロング船長の英語とその同時通訳(日本語)である。

 

これは通訳者西山千氏が通訳したもので、日本における(同時)通訳者の知名度向上につながった偉業でもある。

 

これまでご紹介した通訳者の小松達也氏・村松増美氏と異なり、西山千氏は米国生まれ・米国育ち(米国大学卒)で、のちに帰化して日本国籍を取得した帰国子である。

 

20代から仕事上時々通訳する機会はあったものの、本業として通訳者になったのは1945年(西山氏が当時34歳)の終戦直後、通訳力を見込まれて連合軍総司令部で働き始めたのがきっかけだった。

 

今回ご紹介する『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』は大きく下記2部に分かれている。

 

  • 通訳の基本ー技術と心得
  • 通訳の体験ー国際化とコミュニケーション

 

「通訳の基本」では、逐次通訳と同時通訳の違い、通訳者の条件から、通訳者の倫理まで、氏の経験を交えながら「通訳者」という職業を網羅的に説明している。

 

「通訳の体験」では、西山氏個人に焦点を当てて、氏が通訳者になったきっかけから、誤訳、訳せない日本語訳を氏の経験・知見をもとに語られている。

 

特に「通訳の基本」は、通訳者の行動規範が包括的に記載されており、駆け出し通訳者(社内通訳者2年目)+一人社内通訳者で、「通訳者とはどうあるべきか」一人模索しているトリ女にとって、学び多い内容であった。

トリ女のTake Away

本書の中から、トリ女が皆さまと共有したい3か所を下記にご紹介いたします。

 

  • (通訳に必要な集中力)=(事務に必要な集中力)× 4 という定量化

 

通訳者の個人差はあるが、私の経験では、たとえば正味二時間分の通訳をすれば、それが逐次通訳であろうと同時通訳であろうと、普通に事務の仕事を八時間やった場合と同じ程度の疲労を感じる。いいかえれば、普通の集中力よりは四倍も集中しなければならないと言えるかもしれない。(『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』p30-31)

 

通訳以外の仕事もあるトリ女は、通訳の仕事とほかの仕事のバランスがなかなかとりづらかった。

 

その理由は、通訳後大変疲れると肌間で感じつつも、ほかの事務仕事よりどの程度疲れるのか定量的に分からず、通訳後に通訳以外の仕事をついたくさん受けてしまい、効率が悪くて残業する、というサイクルができてしまったためである。

 

もちろん、西山氏が通訳する際に使う集中力と、トリ女が通訳する際に使う集中力には、質・量ともに異なる点多々あると思うが、通訳とそれ以外の仕事の配分を考える一参考値にはなる。

 

  •  原文にこだわらない勇気

下記は「通訳の落とし穴ーおかしやすい誤り」という章で語られている。

 

「英語の各単語を対応する日本語に訳しても、自然な日本語にならない」という一見当たり前のようで、駆け出し通訳者のトリ女にとって難しい点を丁寧に説明している。

 

通訳術には、ことばの使い方の重要性が問題になることはいうまでもないが、案外それに無頓着な場合がある。その原因の一つは、話し手の原語にこだわりすぎる点である。

(途中略)たとえば、市場開拓の会議で"If you want to expand sales, you'll need to invest more in delveloping product awareness"との発言があったとする。それを通訳者が、「もしもあなたが販売を拡張したいなら・・・」と通訳したら、意味は通じても普通の日本語ではない。「もしも販売を拡張したいのなら、製品への認識を普及させるためにもっと投資が必要です」といえば、英語の意味が日本語として伝わる。

 この例でわかるように、各英単語を、対応する日本語の単語に訳してはいない。英文で"developing product awareness"という語句は、「製品への認識を普及させる」と訳したが、このdevelopingの単語は、英和辞典に出ている「開発」とか「発展」に訳すと、意味が不明になる。意味を日本語でいうなら、「認識を普及させる」といったほうがわかりやすいだろう。(『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』p94-97)

 

トリ女にとって上記を難しくしている理由は、経験不足

 

日本語が不自然になる直訳的な日本語訳を回避しようとすると、どこからどこまでが意訳として許容範囲なのか、どこからが逸脱した訳なのか、トリ女自身で判断するしかないので、ややリスクが高い。

 

たとえば、Twitterでもつぶやいた「feel comfortable with~」。

 

やや高い売上計画を提出した際の、パートナー企業からの一言。

 

”Do you feel comfortable with this plan?"

 

スピーカーの表情と口調から「実現可能なのでしょうか?」と通訳したものの、自分で言うのもなんだが、結構大胆な訳をした。

 

というより、直訳的な日本語があまりにも不自然すぎてできなかった(「この計画に心地よいですか?」って・・・)。

 

その後のコミュニケーションに支障なかったので許容範囲の訳だった、とトリ女判断したものの、会議参加メンバーによっては「計画通りいけそうですか?」とか、もう少し̚カドの立たない訳のほうが良かった可能性もある。

 

なので、駆け出し通訳のトリ女は、誤訳を回避するため、やや不自然でも直訳的な日本語訳になりやすい。

 

  • トップ通訳者でもミスはする

もちろんトリ女よりもミスの回数と程度は異なると思うが、トップ通訳者でもミスはする、と知るだけでも誤訳への不安を少し緩和できる。

 

下記は氏が52歳の時の誤訳エピソード。

 

アメリカで最初に地球を衛星飛行した宇宙飛行士ジョン・グレンが一九六三年にはじめて日本へ来たとき、彼はいろいろな会合で話をした。(途中略)そのとき、ある科学者が「宇宙を飛行中に、宇宙ジンを見ましたか」という質問をした。一瞬、私はとまどった。それでも質問者は真面目な顔つきで聞いている。しかたがないから、私は英語で"While you were in orbit, did you see any spacemen?"と英語訳したとたんに気がついた。「宇宙人」ではなく、「宇宙塵」なのであった。あわてて"Not 'spacemen'...space dust!"と訂正したが、遅すぎた。

会場にいる大半の日本人は、だいたいの英語はわかっていたので、私の通訳した英語もわかった。大爆笑が起こった。(『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』p188-189)

おわりに

 皆さま、いかがでしたでしょうか?

 

米国の大学で専攻した電子工学を離れ、縁あって通訳者の道を選んだ西山千氏は、お茶の間にアポロ月面着陸の感動を届けるという、偉業を残した方でもあります。

 

そんなトップ通訳者西山千氏の通訳に対する考えを本書で触れてみませんか?

 

最後に、氏の通訳に対する想いを下記に記して終わりたいと思います。

 

話を聞いて、それを伝える。簡単なようであるし、実際に傍聴している者にとっては簡単に聞こえる。また簡単なように聞こえなければ、上手に通訳していないことになる。その簡単なことが、このような一冊の本に書いてみても言いつくせない。この事実だけでも読者にご理解いただけたら、ありがたいのである。『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』p252)

 

西山千氏著『英語の通訳ー異文化時代のコミュニケーション』(1988年)をご紹介しました。

 

 

ブログ更新のモチベーションになりますので、

トリ女のTwitterをフォローしてもらえると嬉しいです。