トリ女道~トリリンガル女子のキャリアブログ~

日英通訳の私が+αで中国語のキャリアを模索します

通訳関連本紹介①:小松達也氏著『通訳の英語 日本語』(2003年)

こんにちは!トリ女のマミです。

今回は通訳者小松達也氏の本『通訳の英語 日本語』をご紹介します。

はじめに(小松達也氏紹介)

「君たちはどうせいっぱい間違いをするだろう。だけど気にするな。ただ原水爆賛成とだけは言うな」

これが、私たちが仕事を始めるに当たって、コーチ役をつとめた先輩のアドバイスだった。荒っぽいようだが、このアドバイスは通訳のエッセンスを的確に表現している。通訳で一番大切なのは、細かい点にこだわることなく話し手が聞き手に伝えたいポイントを正しく捉えることだからだ。(『通訳の英語 日本語』p6)

 

本書は上記小松氏の通訳初体験から始まる。

1956年第2回原水爆禁止世界大会で、

プロの通訳者というような存在がなかった時代に、

東京外大2年生の小松氏が初めて通訳を経験したエピソードである。

 

村松氏、國弘氏、私のようなわが国の第1世代の通訳者は、正式に通訳を習ったことはない。私たちは自分たちのことをしばしば「たたき上げの大工」と呼ぶ。学生時代のアルバイトなどの機会を通して見よう見まねで通訳を覚え、仕事を通して腕を磨いてきたわけだ。(『通訳の英語 日本語』p171)

 

上記のように「たたき上げ」で通訳者になった小松氏は、

通訳サービスを提供する日本初の企業「サイマル・インターナショナル」創設に参加、

2019年3月現在も通訳界でご活躍されている。

 

そんな通訳のパイオニア小松氏が

  • 第1章:通訳の仕事
  • 第2章:通訳の歴史
  • 第3章:日本語と英語
  • 第4章:通訳者への道
  • 第5章:同時通訳者がすすめる英語上達法

上記5章にわたって通訳全般を語っているのが、

今回ご紹介する『通訳の英語 日本語』である。

トリ女のTake Away

同書のすべては語りきれないので、

特におススメの下記3章の一部をご紹介します。

 

  • 第2章:通訳の歴史

通訳は人類歴史上2番目に古い職業だといわれる。1番目か2番目かは定かでないにしても、最も古い職業の1つであることは確かだろう。(『通訳の英語 日本語』p39)

という語りから始まり、

世界の通訳史→日本の通訳史という順番で歴史が語られる。

 

特に興味深いのは、

東京裁判での東条英機被告の日本語とその通訳を、

小松氏が解説・評価している部分である。

「外交には駆け引きがありますし、また総理大臣としては腹もあります」という東条の発言である。これを通訳者は、"There is a lot of horse trading, bargaining, in diplomacy, and the Prime Minister has his own mind also"と訳した。「駆け引き」に対する"horse trading"は面白い訳だ。やや俗語的な表現だが、"bargaining"と補足もしており適切である。(途中略)ただ、「腹もあります」にたいして"has his own mind"は必ずしも適切ではない。この「腹」(肚とも書く)は現代日本語でも「腹が読めない」などの例で使われるように、「心づもり」、「本心」という意味で"idea"あるいは"intention"の方が適訳だろう。(『通訳の英語 日本語』p76-77)

 

  • 第3章:日本語と英語

 第3章では、日本語と英語を構造(文法)と語彙の違いから探る。

通訳の誤訳として有名な佐藤首相の「善処します」発言について、

下記のような小松氏の見解が述べられている。

政治家による曖昧な発言というとすぐ思い出すのは、佐藤栄作元首相による「善処します」である。このケースは私たち通訳者の間では古典とさえいわれるほどよく知られ、海外で出版された2冊の翻訳研究の学術書にも紹介されている。(途中略)通訳したのは外務省大臣官房参事官だった赤谷源一氏だったが、正確に何と通訳したかは明らかにされていない。一般に伝えられるところでは、"I'll do my best."、前述の海外で出版された学術書では"I'll handle it as well as I can."となっている。後者の方が直訳的だが、2つとも決して悪い訳ではない。ただ、話し手の真意を深く考えることなく、表面的な言葉の意味を通訳している点では共通している。(『通訳の英語 日本語』p108-109)

そのほか「うらむ」、「くやしい」などの日本語独特の表現の訳し方が、

実例とともに紹介されているので、実務面でも有益な章である。

 

  • 第4章:通訳者への道

第4章では通訳の魅力を紹介しつつ、

通訳者に必要な語学力に対する氏の見解が述べられている。

それでは通訳訓練を受け始めるのに必要な英語力とはどのくらいのレベルだろうか。ここでもまた英語力を数量的に規定するのは危険である。TOEFLやTOEICをその基準とすることも問題だ。しかし他に適当な基準がないので誤解を恐れずにいうなら、TOEFLで600~630点、TOEICで870~900点、といったところだろうか。(『通訳の英語 日本語』p149)

TOEIC900点あった東京外大4年のトリ女は、

英語がほとんど話せなかった。

もちろんリスニング力も低め。

 

そういうトリ女の経験則では、

TOEIC870~900点で通訳訓練は難しいだろう、と思いつつも、

氏の言う通り他に適当な基準がないので、

通訳訓練を開始する一目安にはなると思う。

おわりに

ブログで紹介するため同書を再読したトリ女。

実はこれが2読目で、初めて拝読したのは7年ほど前の翻訳職時代。

 

本書で登場する通訳学校サイマル・アカデミーに通いつつも、

通訳未経験のため、通訳の難しさを正しく理解できるはずもなく、

通訳で一番大切なのは、細かい点にこだわることなく話し手が聞き手に伝えたいポイントを正しく捉えることだからだ。(『通訳の英語 日本語』p6)

上記序章を「なんて当たり前のこと言ってるんだろう」と、

読み流していました。

 

社内通訳として働く今、

そんな気にも留めなかった部分に大きく心を揺さぶられる。

 

特に交渉が難航し、状況が複雑化し、双方の感情入り乱れる議論では、

日本人スピーカーですら大意をつかみにくいこともあり、

それを限られた時間とプレッシャーの中で、

「話し手が聞き手に伝えたいポイント」を丁寧に探して英語に変換するのは、

本当に、本当に、難しい。

 

いかに難しいか分かっているからこそ、

小松氏はその当たり前の大事さを同書で再提起してくれたのだろう、

とトリ女は思っています。

 

通訳を目指す人も、英語に興味ある人も、

日本の日英通訳者の第一人者として、

人生駆け抜けた小松達也氏の通訳観をお楽しみください。

 

ほかに『英語で話すヒント――通訳者が教える上達法』(2012)もおススメ。

 機会があったらブログで紹介しますね。

 

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